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がんとミトコンドリアの関係|仕組みと研究段階を技師が解説

がんとミトコンドリアの関係|仕組みと研究段階を技師が解説

がん細胞は、正常な細胞とは異なるエネルギーの作り方をしていることが知られています。その中心にあるのが「ミトコンドリア」と、がん抑制遺伝子として有名な「p53」の働きです。「ミトコンドリアを元気にすればがんが治る」といった情報を目にすることもありますが、現時点でその効果を裏付ける十分な臨床エビデンスはありません。この記事では、がんとミトコンドリアの関係について、査読論文と臨床検査技師の視点から、研究段階の内容として整理します。

この記事でわかること

  • ワールブルグ効果とは: がん細胞が酸素があっても解糖系を優先して使う代謝の特徴です
  • p53との関係: がん抑制遺伝子p53はミトコンドリアの働きを保つ役割を持ち、その変異が代謝異常に関わると報告されています
  • 「鍛えれば治る」ではない: ミトコンドリアを活性化させることでがんが治る・防げるという断定的な情報には、現時点で十分な臨床エビデンスがありません
  • 腫瘍マーカーの見方: 感度に限界があるため、一回の数値ではなく経時的な推移で捉えることが重要です
  • 検査値はがん種で異なる: 着目される項目(LDH・ALT等)はがんの種類によって変わります
目次

がん細胞の「ワールブルグ効果」とは

がん細胞は、酸素が十分にある環境でも、酸素を使わない代謝経路である解糖系を優先的に使ってエネルギーを作る傾向があることが古くから知られています。この現象は「ワールブルグ効果」と呼ばれています。

以前は、この現象から「がん細胞のミトコンドリアは壊れて機能していない」と単純化して説明されることがありました。しかし2023年に発表された総説では、解糖の亢進はミトコンドリアの働き(酸化的リン酸化)を部分的に抑えるものの、TCA回路と呼ばれる代謝経路の酵素を組み替えることで、ミトコンドリア自体は増殖に必要な物質の産生に積極的に利用され続けていると報告されています(PMID:37958775)。つまり「ミトコンドリアを使わない」のではなく「ミトコンドリアの使い方が変化している」というのが、現在の研究でより近い理解といえます。

Q. なぜがん細胞はミトコンドリアをあまり使わないと言われるのですか?

A. 酸素が十分あっても解糖系を優先する「ワールブルグ効果」という現象があるためです。ただし近年の研究では、ミトコンドリアを完全に手放しているわけではなく、代謝経路を再編成して利用していることが報告されています(PMID:37958775)。

なぜ起きる?p53とミトコンドリアの関係、がん種で変わる検査値

ワールブルグ効果が起きる背景の一つに、がん抑制遺伝子として知られる「p53」の変化があります。p53は通常、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を維持し、解糖系を抑える「代謝の門番」のような役割を担っていますが、がん細胞ではp53の変異によってこの制御が外れ、ワールブルグ効果が助長されると報告されています(PMID:29890631)。

(臨床検査技師の視点)どの検査値に注目するかは、がんの種類によっても異なります。代謝の変化を反映する数値として代表的なのはLDH(乳酸脱水素酵素)ですが、たとえば肝臓に関わるがんであればALT(GPT)のように、肝機能を示す項目のほうが重視されることもあります。がんとひとくくりにするのではなく、どの臓器・どの種類のがんかによって、着目すべき検査項目は変わってきます。

Q. p53とミトコンドリアはどう関係していますか?

A. p53はミトコンドリアの酸化的リン酸化を保ち解糖を抑える働きがありますが、がん細胞ではp53の変異によりこの制御が外れると報告されています(PMID:29890631)。

Q. がんの種類によって注目する検査値は違いますか?

A. はい、がんの種類によって代謝の現れ方は異なり、代表的にはLDH(乳酸脱水素酵素)が着目されることが多い一方、肝がんではALTなど肝機能に関わる項目が重視されるなど、がんの種類ごとに見る項目は変わります(臨床検査技師の視点)。

「ミトコンドリアを鍛えればがんが治る」は本当か

※本記事は研究段階の知見を整理したものであり、特定の食事法・生活習慣・サプリメントによってがんが治る、または予防できることを保証するものではありません。がんの治療方針や体調の変化については、必ず主治医にご相談ください。

インターネット上では、糖質を制限した食事(ケトン食)や運動でミトコンドリアを活性化させれば、ワールブルグ効果を逆手に取ってがん細胞を弱らせられる、という情報を見かけることがあります。がん細胞の代謝的な特徴に着目した研究報告自体は存在しますが、これらは主に基礎研究の段階であり、標準治療を代替できるレベルの臨床エビデンスは確立していません(※確認中)。

(臨床検査技師の考察)ミトコンドリアや代謝に関する研究が進んでいることと、それが個々の患者さんの治療の選択肢になり得るかどうかは、別の問題です。食事や生活習慣の工夫が体力の維持に役立つ可能性はあっても、標準治療の代わりになる、あるいは治療をやめてよいと判断できる根拠にはなりません。

ミトコンドリアに関わる栄養素やサプリメントの種類について知りたい方は、ミトコンドリアサプリおすすめ比較で成分ごとの違いを整理していますが、これらはあくまで健康維持を目的とした一般的な情報です。がんの治療や予防を目的として摂取を検討する場合は、必ず主治医にご相談ください。

Q. 糖質制限やケトン食でがん細胞を弱らせることはできますか?

A. ワールブルグ効果を逆手に取った研究報告はありますが、標準治療を代替するレベルのエビデンスは確立していません。自己判断で標準治療を中断せず、必ず主治医に相談してください。

Q. ミトコンドリアを増やせばがんが治る・予防できるというのは本当ですか?

A. 現時点で人を対象とした質の高い臨床試験による裏付けはなく、研究段階の仮説です。断定的な情報には注意してください。

腫瘍マーカー・数値との向き合い方(技師の視点)

がんに関連する検査というと、腫瘍マーカーの数値の高い・低いに目が向きがちです。しかし(臨床検査技師の視点)腫瘍マーカーは、他の一般的な血液検査項目と比べてそこまで感度の高い検査ではありません。基準値の内か外かという一点だけで判断するのではなく、これまでの数値がどのように推移してきたかという経時的な変化を確認することが重要な検査だと捉えています。

そのため、一回だけの数値の上下に一喜一憂するのではなく、定期的に検査を受けて数値の推移を医師と一緒に確認していくという向き合い方が大切です。数値の変動が何を意味するかについては、必ず主治医にご確認ください。

Q. 腫瘍マーカーの数値が基準値内なら、がんの心配はないですか?

A. 腫瘍マーカーはそこまで感度の高い検査ではなく、一回の数値の高い・低いだけでなく、どう推移してきたかという経時的な変化を見ることが重要です(臨床検査技師の視点)。数値の変動の意味は医師に確認してください。

まとめ:今日からできること

がんとミトコンドリアの関係は、ワールブルグ効果やp53の変異といったキーワードを中心に研究が進められている分野です(PMID:37958775、PMID:29890631)。一方で「ミトコンドリアを鍛えればがんが治る・防げる」といった断定的な情報については、現時点で十分な臨床エビデンスがないことを踏まえて受け止めることが大切です。

健康診断や人間ドックで腫瘍マーカーやLDH・ALTなどの数値を指摘された場合は、一回の数値だけで判断せず、経時的な推移や他の検査結果とあわせて、必ず医師に相談することをおすすめします。

がんとミトコンドリアのよくある質問

Q. 抗がん剤治療中に運動でミトコンドリアを増やすことに意味はありますか?

A. 有酸素運動が体力維持に役立つ可能性は一般的に知られていますが、がん治療そのものへの効果を断定する根拠はありません。治療方針は主治医と相談の上で進めてください。

参考情報

  • Alberghina L.「The Warburg Effect Explained: Integration of Enhanced Glycolysis with Heterogeneous Mitochondria to Promote Cancer Cell Proliferation」Int J Mol Sci. 2023.(PMID:37958775)
  • Moulder DE, Hatoum D, Tay E, Lin Y, McGowan EM.「The Roles of p53 in Mitochondrial Dynamics and Cancer Metabolism」Cancers (Basel). 2018.(PMID:29890631)

なお、ミトコンドリアの基本的な仕組みはミトコンドリアとは?簡単にわかる構造・仕組みと働き、ATP産生の詳しい流れはミトコンドリアの働きと役割|ATP・エネルギー産生を技師が解説、ミトコンドリアに関わる栄養素・サプリメントの比較はミトコンドリアサプリおすすめ比較で紹介しています。

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